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掌編「ガールズビタースイート」

「私が死んでも、あんたの旦那にお経とか読ませないでね。」

 ——うん、わかってる。

 私はそう頷くことしかできなかったけど、それ以外にかける言葉もなかったし、そんな資格もなかった。私は結婚する。正確に言うと、しなければならない。家の跡を継ぐために、婿をとらなければならないのだ。大学を卒業して、2年は好きなことをしていい。好きなだけ踊っていい。2年経ったら、見合い結婚をする。それが何百年と続く寺の長女である私に与えられた条件で、私はこの1年、本当に狂うんじゃないかというくらいバレエを踊った。狂うほどバレエを踊ったけど、それよりももっと狂おしいほどに、リサを愛していた。リサが私たちに将来がないことを最初からわかっていたように、私もやがて訪れる見合いにむけて、この関係を絶たなければならない日がそう遠くないことを知っていた。

 なんて残酷なんだろう。リサは何一つ不満を漏らさなかったが、きっと私が婿をとることを快く思っていないし、そんな得体の知れない婿の坊主なんかと跡取りのために結婚する私を軽蔑したかもしれない。

「リサが死んだら、リサの一番太い骨を拾うよ。」

 誰と?とは聞かれなかった。しばらく沈黙が続いた。キンモクセイの香りが、風に乗って鼻をくすぐる。秋だ。その先では、冬が待っている。

「リサ、私よりも先に死なないで。」

「君って本当に勝手だよ。いつだってあたしを一人にするんだから。」

 何も言えない。私はリサの後ろから、彼女を抱きしめた。細い首。リサの身体が脈打つのを感じる。リサの肩が震えていた。不満などほとんどこぼさなかったリサは、今もなお声を殺していた。また、どこからかキンモクセイの香りがした。やっぱり秋だ。そのすぐ先では、冬が待っている。冬が終われば、私たちは、

(了)

 

 e.chiba作(デザイナー 兼 写真家)

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